第35回 スポーツ医学研修会
蝶間林 利男 先生
「日本のテニスとスポーツドクターに期待するもの」
2002.4.28湯河原ラケットクラブ
第3コート 「日本のテニスとスポーツドクターに期待するもの」
横浜国立大学教育人間科学部 教授 蝶間林 利男 先生(医学博士)
日本テニスが低迷しています。昭和30年代の皇太子殿下(現天皇) の
ご成婚を機に第1次テニスブームが起こりました。その後、伊達、 沢松、
遠藤、杉山、松岡、など多くの世界的トップ選手の活躍に支え られ人気を
博してきましたが、ここ10年、日本社会の沈下とともに、 そしてバブル
崩壊とともに急速にその勢いをなくしてきています。教 育に携わるものと
して、心身の健全な成長をテニスによって期待する ものとして残念でなり
ません。テニスは世界的に見てもサッカーに 次いで愛好者が多いスポーツ
であり、単に楽しいとか健康に良いだけに とどまらず、すばらしい友人た
ちとの出会いや自分自身をより高める 手段となるなど人間教育の一環とし
ての地位を築いているスポーツ であります。近年、社会的問題となってい
る「いじめ」や「ムカツく」、 「キレる」など青少年の心の病を防ぐてだ
てにも通じると考えられ、 何とか後世に伝えていきたい文化です。
今年のデ杯は1回戦ソウルで宿敵韓国に逆転勝ちし、おおいに意気 上が
り2回戦のタイ戦(4/5,6,7バンコック開催)に望みましたが、 結果は今
朝の朝刊を見る限り惨敗です。初日から37度の猛暑での戦い となり、エ
ースの鈴木、新鋭の寺地らが相次いで体調を崩し、実力を 発揮できないま
まに終わってしまったようです。デ杯のような敵地での 短期決戦では選手
のコンディショニング作りが何よりも大切となります。 1984年東洋ゾ
ーンの決勝パキスタン戦はイスラマバードで行われま したが、コートや宿
舎、水、食事などの情報の収集を事前に行い、適切 な食事と体調管理を行
うことが出来たので29年ぶりの勝利となりました。 大使館や在留邦人が
たの差し入れ等があり、選手たちが体調を崩さずに ほぼベストな状態で戦
えたのは非常にラッキーなことでした。もし、 スポーツドクターが同行し
てくだされば選手はもっと安心して試合に 望めたのではなかったでしょう
か。日本ではデ杯にドクターは帯同 されていませんが、欧米ではドクター
がスタッフとしてティームに入り、 普段から選手とのコミュニケーション
が図られているといいます。 日本テニス協会にはスポーツ医事委員会があ
り、ドーピングや医事 セミナーの開催など啓蒙活動を主として活動されて
いますが、各地域、 県や市でもスポーツドクターの積極的なテニス競技力
向上(ジュニア からデ杯、フェド杯まで)への参画が日常的に行われるこ
とが望まれ ます。
一方、生涯スポーツとしてのテニスを考えてみますと現在二つの 大きな問
題に直面しています。ひとつはテニスクラブの閉鎖、 衰退であり、もうひ
とつは若者のテニス(スポーツ)離れです。
テニスクラブの衰退は相続の問題や財務内容の問題が大きいといえ ます
が、若者の入会が進まず、高齢者が多くなっていることが問題 です。クラ
ブ員の高齢化はテニスひじや腰痛など各種テニス障害を 惹起し、プレー人
口の減少にもつながっていくとも考えられます。 加齢やオーバーユースは
筋や関節の粘弾性を奪い、障害を引き起こす 大きな要因となるので個人差
を考えたプレーをしなければなりません が、わが国の健康教育では自分自
身の身心の健康状態を正確に把握 するようにはしつけられていないようで
す。これからのテニスクラブ はただ単にテニスを楽しむ場所としてではな
くスポーツドクターを 囲み、和気藹々と長生きの秘訣や健康を考えるサロ
ン的な場所である ことが望まれます。
若者のテニス(スポーツ)離れは根が深く、幼少期のファミコン遊びや
個室育ちなどが遠因と考えられています。これらは他人との 協調を回避し、
自己中心的な考え方を助長するものとなりやすいと いわれています。テニ
スというスポーツは自己中心的な考えでも ある程度通用しますが真の一流
にはなりえないと思います。 「気配り」が勝つためにも協調していくため
にも必要となる資質 であると思います。テニス(スポーツ;あそび)は勉
強や仕事と 対比され、敬遠されがちですがテニス(スポーツ)が上達する
と いうことは体や心、相手への気配りと自己コントロール、目的に向って
はしごをかけたり、自己表現をしたりすることなどが重要 となります。つ
まり、根幹の部分でテニスの上達は勉強や仕事が 出来ることと合い通じる
ものなのです。また、スキャモンに よれば10歳ごろ(小学校高学年)ま
でに人の神経系は飛躍的に 発達するといわれ、テニスを始めとするスポー
ツの上達の基礎は 小学校時代に形成されるのがベストであるようです。で
すから、 この時期までに遊びを通してスポーツの基本的な動き;バランス、
タイミング、リズムの取り方などを走る、飛ぶ、投げる、打つ、 すべる、
泳ぐなどを学んでおくこと、さらに遊びの持つ意義を しっかり植え込んで
おくことが重要なのです。これは貴重な友人 を持つことと同じでお金でな
い財産であり、必ずや彼らの将来へ の財産となるはずです。このような考
え方を遂行していくには 従来の教育の枠組みである家庭や学校だけで成し
遂げることは 出来ません。国民の健康の維持増進に直接かかわっておられ
る 全国のドクター(学校医を含めて)が日本の将来を考え、スポーツの楽
しさ、豊かさ、必要性をより御理解していただき、 そして啓蒙していただ
き(出来ればスポーツドクターの資格を 取っていただき)、親や教師と連
携して子供の健全な発育発達 のアドバイスをしていただく以外に道はない
と思います。
ドクターの革新的な活動を切に期待しております。